羊の水海

ストーリー

2020年7月15日

アイスティー

 アイスティーを二杯入れて、リビングに運ぶとリンカリンネがカーテンをすべて開いて窓に手を触れ、その向こうの景色を見ていた。
 子供たちの声が聞こえる。
 僕の住むマンションのすぐ向かいには公園がある。割と大きめな公園で、ブランコや滑り台、アスレチック遊具などの定番どころがあり、野球のグラウンドがあり、夏になると幼児が遊ぶような大きさのプールも開放される。
 テーブルにアイスティーを置いて、リンカリンネの横に立ち、僕も外の風景を見てみた。

 公園には子供も大人もたくさんいて、それぞれがキャッチボールをしていたりサッカーをしていたり、ベンチで話し合っていたり、犬の散歩をしたりしていた。

「外出自粛なのになぁ」

 僕がそう溢す。

「でもこれが人間のあるべき姿だと思うよ。公園だって喜んでる」

 確かにこの公園は普段は人がほとんどいなく、若者の公園離れという言葉も実際にあるらしい。

 といっても、こういう若者のなんとか離れという言葉はよく耳にする。若者の車離れ、若者のスナック離れ、酒に煙草、恋愛離れというものもあるらしい。若者は離れ続けた先で無事何かを得られているのだろうか。

「ただ、外出自粛って言葉がニュースでも散々言われているのに、こんなにたくさんのひとがいるなんて」

「見てわからない? あのひとたちはあそこが家なの。あそこだけじゃなくてこの地球全体が、人類にとっての家なの。だから家にいなさい、だと効力があまりないということね」

「それは屁理屈だと思うけれど」

 何やらうまいことを言った雰囲気を醸し出すリンカリンネにそう返すと、リンカリンネは口を膨らませて少し不機嫌になってしまった。

 僕がアイスティーを手渡すと、リンカリンネは黙って受け取り、一口だけ飲む。

 おそらく公園で遊んでいる彼らは具体的に公園に行くなと言われない限り、公園に行くことは問題ないと思っているのだろう。彼らにとって外出自粛というのは、よく行く商業施設とかカラオケとか居酒屋なんかが営業をしていないという認識でしかない。危機感を持ちすぎて他人を攻撃してしまうよりはましだろうけれど、危機感がなさすぎるというのも考えものである。

「きっとね」

 リンカリンネが口を開く。

「これは間引きなのよ。人類はあまりにも増えすぎたから、天が人間を減らそうとしているのよ」

「何その宗教観。結局はただのたちの悪いウイルスだよ」

 リンカリンネは「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」と曖昧なことを言って、その後は何も続けなかった。

 窓の向こうを見ているリンカリンネの瞳は、日差しの光を集めてきらきらと輝いている。しかし白磁のように白い顔からは何の感情も読み取ることはできなかった。

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