羊の水海

コミック

2020年7月26日

僕も雪女と蟹を食いたい

長らく更新が停滞してしまっていた。外せない用事があってブログを書くことができなかったというわけではなく、ただ何もする気が起きず単純に何もしていなかっただけだ。
最近は不眠気味で上手く寝ることができず、日の出近くになってようやく眠ることができたかと思えば窓の向こうから聞こえる生活音ですぐに目覚めてしまう。そんな睡眠不足の頭では起きていても正常に物事を考えるということが難しい。

何もする気が起きないときは僕はAmazonで適当に漫画を電子書籍版で購入して読んだりする。ここ三年ぐらいは漫画を紙で購入していない。漫画は電子書籍で読むのに限るが、小説はいまだに紙で買ってしまう。

というわけで今回も漫画を買って読んだ。買ったのはGino0808著の『雪女と蟹を食う』という漫画だ。あらすじはこう。

首を括って死のうとしていた主人公が、ふとテレビで蟹を試食しているワイドショーを見る。主人公は蟹を食べたことがなく、どうせなら北海道で蟹を食べてから死のうとするけれども、旅行をするような金がない。偶然美人で金持ちの人妻を目撃し強盗に入るが、事の成り行きでその人妻と北海道まで一緒に蟹を食べに行くことになる。

僕はこういうロードムービー的というか、破滅的な終着へ向かう旅をする物語が好きだ。厳密に言えばこの作品は違うけれども、僕はこういう話を勝手に頭の中で「逃避行系」と読んでいていくつかリストアップしている。それも紹介したいのだけれど、逃避行系で実際に逃避行をするのはエンディング近くになってからという作品がほとんどであり、「この作品は最後の逃避行が面白い」と言ってしまえば、ネタバレとなってしまい興醒めしてしまうだろうから歯痒い。

『雪女と蟹を喰う』は本当に北海道まで蟹を食べに行くというだけの話なのだけれども、この物語にはいくつもの深淵がある。なぜ主人公は死のうとしているのか、なぜ人妻は強盗に入った主人公と北海道まで一緒に行こうとするのか、この旅の終着点には何があるのか。

人妻のキャラクターが魅力的で、まさに「妖艶」という言葉が似合い初めのうちは何を考えているのか奥底が全く見えない。しかし旅をしていくにつれて、主人公と人妻は抱える深淵を共有しつつ精神的にお互いを理解しあっていく。自死しようとしていた主人公の心は徐々に満たされていくけれども、この旅の終わりにあるのはあくまでも「死」だということを知っている。北海道まで行って蟹を食べて死ぬ、それが目的だということを知っている。旅を進めていくということは破滅的な終着に徐々に近づいていくことに他ならず、主人公の心中には様々な感情が浮かんでいく。このような主人公の葛藤や、孤独なものたちが心で繋がりあっていく様に見応えがある。

現在は5巻まで刊行されており、実際にラストがどうなるかは分からない。この世の淵に立っている人間の孤独や絶望、そしてそれが溶かされていくような描写は丁寧に描かれている。叙情的で退廃的な物語が好きな人には是非ともおすすめしたい作品だ。

ちなみに作者がTwitterで一話を掲載している
最近はTwitterでこういう風に一話だけ掲載している漫画が多く、それを見ると続きが気になってしまうから販促としては凄く効果があるなあとつくづく思う。
出版社の公式サイトでは二話まで掲載しているようなのでこちらもどうぞ

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